003|月夜の剣士〜清十郎ヴァンパイア侍〜|小説

満月の夜。
当然ながら月明かりで町の隅々までが見渡せるが
この刻限、ふらふらと出歩く物好きも居るまい。
と、ひとり火の見櫓の上から有る物を見物している人影。
その視線の先、とある大店の屋根の上を駆けていく男。
ほっかむりに全身黒の出で立ちは明らかに盗人に見えるのだが・・・。

火の見櫓から眺めている男は取り立てて何かをしようともしない。
駆け抜けていく、というより追っ手から逃げているその男を目で追っている。
足元からは「あっちへ行った」「向こうに居る」などと町方の声が聞こえるが 逃げているその男にはなにやら余裕のようなものが感じられる。
だからだろうか・・・火の見櫓の男、清十郎は口元に少し笑いを浮かべながらその様子を見ている。

「いつもいつも、精が出るね」と清十郎。
声をかけられた男も相手が誰かわかっているようで軽口を返してくる。
「旦那もまたお月見ですかい」と。
この二人たびたび顔を合わせているようである。
「おっと、いけねえ。長居してるととっ捕まっちまうぜ」
そう言い残すと身軽に屋根を飛び越え闇の中に姿を隠した。
「懲りないねぇ」と思いつつ、決して深入りはしない清十郎。

満月